5人姉妹の父親と母親、ベネット夫妻。
ベネット夫妻というとしっくりときませんね。やはり、ベネット氏とベネット夫人でしょうか。ちゃきちゃきしゃべる夫人とそんな夫人のとりとめのないおしゃべりに辟易しているベネット氏。
5人姉妹のうち、ベネット氏は特にジェインとエリザベスをかわいがり、ベネット夫人は特にリディアをかわいがり、ジェインを自慢の娘と思っています。
メアリとキティは…ベネット夫妻の名誉のために申し上げますと、この二人もそれなりに可愛がられています。
『高慢と偏見』におけるベネット氏とベネット夫人
ベネット夫妻は結婚生活23年。
物語の冒頭からして二人の性格が明確になります。
ベネット氏は頭の良さと皮肉とユーモアと不愛想と気紛れが奇妙に入混じった人物だったので、二十三年の夫婦生活をもってしても妻には夫の性格が未だによく分からないのであった。一方、ベネット夫人の心はさほど分りにくい方ではなかった。夫人は物分りが悪い上に物知らずなお天気屋であった。何か不満なことがあると、自分は神経が参っているのだと思い込んだ。夫人にとっては娘達の結婚が人生の一大事であり、知人を訪ねて世間話に打興じることが人生の気晴しであった。(p20)
ベネット夫人は5人の娘をいかにして資産家と結婚させるかということと自分のささやかな神経のことにすべての関心が向いています。
一方、ベネット氏は些細なことでむきになりがちな妻をからかいながら会話しながら、何を考えているのか分からない人物とされています。
以下はエリザベスとダーシー氏の結婚が決まった時の二人の反応です。
ここでも二人の性格の違いが顕著にあらわれています
エリザベスの結婚の際、ベネット氏
私はあの男には承諾すると云っておいた。どうも私はあの手の男が苦手でな、下出に出られると、何事も拒み切れんのだ。もしお前があの男をおっとにすると決めているのなら、お前にもここで承諾を与えよう。だが一つだけ忠告させてもらう。お前は、夫となる男を本心から尊敬出来なければ、自分よりも優れた人間だと本当に思えなければ、決して幸せにも、まともな妻にもなれないだろう。(p639)
ベネット氏にとってエリザベスはジェインと並ぶお気に入りの娘の一人です。
自分と似たところのあるエリザベスの気質をかっており、彼女の幸せのことを考えて発言します。
「お前は本当にダーシー氏と結婚して幸せになれるのか?あんなに高慢で無礼な男の妻で耐えられるのか?きちんと愛し、尊敬しているのか?」
と。
それに対してエリザベスの返事はもちろん「イエス」。
エリザベスの結婚の際、ベネット夫人
ほんとにまあ! 何てことでしょう! どう考えてもまさかとしか思えない! ミスター・ダーシーだなんて! 一体誰がそんなことを思ってもみたかしら? でもそれは本当に本当なのね? まあ! 愛しいリジー! それじゃお前は大変なお金持になって、とても偉い奥様になるんじゃないの! お小遣いはたっぷり、宝石もどっさり、馬車だって素敵なのが何台も! ジェインなんか較べものにならないわねーほんと足許にも及ばない。ああ、嬉しいわねえー幸せで胸がいっぱいだわ。それにしても何て魅力的な人かしらね! それは男前で、あんなに背が高くて! ああ、愛しいリジー! 私はあの人のころを今までひどく嫌っていたけれど、お前からよくよく謝っといておくれね。(P642)
一方、ベネット夫人も当初の無礼な態度を忘れられず、ダーシー氏を嫌っていました。
ただただビングリー氏の友であるという理由で彼を受け入れていました。が、よくよく考えると(考えなくても)ダーシー氏の地位、風貌、年収1万ポンドという羽振りの良さを考えると、ベネット夫人が望みうる限り最高の婿です。
その本音が上のセリフにあらわれていますね。
「リジー!なんて大金持ちの夫を捕まえたのよ…!」
と。
一説によると年収1万ポンドは当時のイギリスの上位300~400位の資産階級を意味し、年収2,000ポンドのベネット家から見ると仰ぎ見るような存在だったのでしょう。
ベネット夫妻を演じた俳優たち
ベネット氏を演じた俳優
『高慢と偏見』(1940年) | エドマンド・グウェン( Edmund Gwenn ) |
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『高慢と偏見』(1995年) | ベンジャミン・ホウィットロー( Benjamin Whitrow ) |
『プライドと偏見』(2005年) | ドナルド・サザーランド( Donald Sutherland ) |
『高慢と偏見とゾンビ』(2016年) | チャールズ・ダンス( Charles Dance ) |
ベネット夫人同様にこちらもその時代を代表するベテラン俳優が出演しています。
特に後年の2作、『プライドと偏見』のドナルド・サザーランドと『高慢と偏見とゾンビ』のチャールズ・ダンスは「わお」と思いました。
ドナルド・サザーランドの息子は『24』シリーズのキーファー・サザーランド。自身も有名な俳優であり、バンクーバーオリンピックの時の旗手の姿が忘れられません。「え、ドナルド?」と驚いたものです。
『高慢と偏見とゾンビ』のチャールズ・ダンスは『ゲーム・オブ・ザ・スローンズ』のタイウィン・ラニスター役で非常に印象的。厳しいお父さんから、皮肉屋のベネット氏を演じることに。
しかし、ベネット夫人同様に『高慢と偏見とゾンビ』では存在感が薄かったのが残念です。
ベネット夫人を演じた女優
『高慢と偏見』(1940年) | メアリ・ボーランド( Mary Boland ) |
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『高慢と偏見』(1995年) | アリソン・ステッドマン( Alison Steadman ) |
『プライドと偏見』(2005年) | ブレンダ・ブレッシン( Brenda Blethyn ) |
『高慢と偏見とゾンビ』(2016年) | サリー・フィリップス( Sally Phillips ) |
うざいけれど、愛すべきベネット夫人。
その時代を代表する女優がベネット夫人を演じていますね。個人的にはBBC版でアリソン・ステッドマンが演じたベネット夫人が忘れがたいものがあります。
なんていう見事なベネット夫人…!と感動したものです。わたしにとってベネット夫人とはこのベネット夫人をさします。
とはいえ、『プライドと偏見』ではイギリスの誇る演技派女優ブレンダ・ブレッシンが出演しているのも忘れがたい。彼女はBBC版のベネット夫人を相当に研究したに違いない、という演技を繰り広げています。
また、衝撃を受けたのは『高慢と偏見とゾンビ』でサリー・フィリップスがベネット夫人を演じていたこと。
彼女は『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズではブリジットの親友、シャロンを演じていた女優。その女優がベネット夫人の役を…わたしも年をとるはずだわ、としみじみさせられました。
が、彼女が演じた『高慢と偏見とゾンビ』のミセス・ベネットはやや露悪的で、愛すべきベネット夫人の特徴がちっとも出ていなかったのが残念です。
いずれにしろ、芸達者な女優さんがミセス・ベネットを演じることが多いですね。