Lydia-Bennet リディア・ベネット

母親のベネット夫人のお気に入りの娘。ベネット家の末娘。

母親に愛されて育ったリディアは明るく、自己肯定感が強く、ある種の天真爛漫さと無軌道さを備えています。

『高慢と偏見』におけるリディア・ベネット

リディアはまだ15歳だが、すくすくと育って体格がよく、色艶のいい陽気な顔立ちをしていた。母親のお気に入りで、甘やかされて育ったため、幼いころから人前に出ることに慣れていた。ひどく元気のいい娘で、生来自惚屋なところがあったが、このところフィリップス伯父の家の立派な食事と本人の気さくな態度のおかげで士官達に気に入られてちやほやされているのだから、自惚は自信にまで高まっていた。(p87)

エリザベスが父親のお気に入りの娘ならば、リディアは母親のお気に入りの娘。

末っ子のリディアは母親に愛されて、甘やかされて育ちました。それゆえの傲慢さと自惚れ、そして軽薄さがリディアには常につきまといました。

社交界にデビューするやいなや、リディアは多くの男にチヤホヤされる浮ついた楽しみを見つけてしまったのです。

エリザベスは父に向って、リディアには日頃から不謹慎な態度が目立つこと、ミセズ・フォースターのようなひとと親しくしているとろくなことにはならないこと、そしてメリトンなどより遥かに誘惑の多いブライトンで、あのようなひとと一緒にいたらリディアはますます思慮をなくしかねないことを、はっきりと指摘した。(p393)

ミセズ・フォースターとは大佐の妻であり、リディアとことさらに仲が良い女性。その彼女がブライトンへリディアを招待した時のエリザベスの危惧。

それに対し、ベネット氏の返答はリディアを揶揄するかのようなものでした。

リディアはいずれどこか公の場でやらかして世間の物笑いにでもならないことには、どうせ治まりはせんのうだろう。今度の場合、我が家には殆ど費用も迷惑も掛からないのだし、それでそうしてくれるのなら、むしろ得がたい機会なんじゃないかな。(p393)

エリザベスは父親のそんな態度を物足りなく思いました。

士官達のあとを追掛け廻すことが人生の目的ではないことを教えて下さらないと、あの娘はやがて取返しのつかないことになります。このまま放っておけばあの娘の性格は変るきっかけを失い、一六歳ですっかり浮気娘になって、当人はもとより私達までよの笑い物になりかねません。それも若くて顔立ちがまあまあという以外には何の取柄もない、ただ男と遊び戯れるだけの最悪最低の浮気娘です。(p394)

重ねてエリザベスが訴えるもの、ベネット氏はさほど重要なこととして捉えていませんでした。

同性の姉妹の視点か、異性の父親の視点かでリディアに対する見方が大きく異なっているようですね。

考えてみれば、エリザベスはしょっちゅうリディアと一緒にいますが、書斎に閉じこもりきりのベネット氏はリディアの言動を直接に理解していなかったのかもしれません。

底は本来ならばベネット夫人がリディアを御すべきだったのですが、ベネット夫人にとってはリディアは自分に気質がよく似た最愛の娘。リディアの誤りを指摘することは自らに刃を突き刺すようなものだったのかもしれません。

結果、エリザベスの危惧は現実のものとなりました。

リディアとウィカムの駆け落ちと結婚

リディアとウィカムの駆け落ちはベネット家を揺るがしました。

当時、女性の貞節は何よりも大切なものでした。

一方、リディアのように未婚の女が正式な結婚をせず、「堕ちた女」となり社会からはみ出すことは、一族の不名誉とされました。事はリディアだけの問題ではないのです、ベネット家全体にのしかかってくるのです。

最終的にリディアとウィカムは同姓から2週間後、ダーシー氏の計らいにより結婚します。

私の旦那様をどうお思い? すごく魅力的な人だとお思いにならない? お姉様達は私が羨ましくて仕方がないんじゃないかしら。私としてはお姉様達にもせめて私の半分でいいから幸運を掴んでもらいたいと思っているのよ。(p534)

駆け落ちをして、同棲をして、周囲を動転させ、ウィカムと結婚したリディアは結局リディアのままでした。彼女にとってこの結婚は何一つ恥じるところがないのです。

「末っ子の私が誰よりも早くに結婚したのよ!わたしはウィカム夫人なのよ!」とリディアは誇りに思い、家族に受け入れられることを疑ってもいません。

が、ベネット夫人はともかくとして、ベネット氏やエリザベス、ジェインなどの良識ある家族からは阻害されることになります。

リディアは仲良しのキティを何度も『魅力的な士官を紹介してあげるわ、是非、来て!』と招待しますが、キティが訪問することは決して許されませんでした。

むしろ、ベネット家の誰もがリディアとウィカムが暮らす家へ訪問していないことは容易に想像できます。

リディアは自らの駆け落ちをもって一族の名誉を汚したのです。

それだけにダーシー氏の助けはベネット家にとっては大いなる恵みでした。

リディア役を演じた女優

『高慢と偏見』(1940年) アン・ラザフォード( Ann Rutherford )
『高慢と偏見』(1995年) ジュリア・サワラ( Julia Sawalha )
『プライドと偏見』(2005年) ジェナ・マローン( Jena Malone )
『高慢と偏見とゾンビ』(2016年) エリー・バンバー( Ellie Bamber )

リディア・ベネットを演じた女優で一番印象に残っているのはBBC版でリディアを演じたジュリア・サワラの演技ですね。

彼女が演じるリディアを見て、「本当になんておバカさんなんだろう…!」とイライラさせられたもの。

本当に芸他者な子役だと感じたものです。が、演じた女優ジュリア・サワラは当時すでに20代後半だったんですね…確かに老けて見えましたわ。だからこそ、あんなにうまくイライラさせるリディアを演じることができたのでしょう(笑)

そして、1940年の『高慢と偏見』でのリディアはラン・ラザフォード。

懐かしい名前です。映画『風と共に去りぬ』でヴィヴィアン・リー演じるスカーレット・オハラの妹役を演じていましたね。

リディアは物語を大きく動かすキーパーソンですが、映画化されるとやや扱いが小さくなる印象。なので、リディアの無軌道さ、愚かさなどが表現しきれていないのが残念…!

そういう意味では全6話でじっくりと見せたBBCの『高慢と偏見』のリディアはまさにはまり役でした。

わたしの中のリディアは彼女ですね。