フィッツウィリアム・ダーシー( Fitzwilliam Darcy )、ダービシャのベンバリーの当主

ヒロイン、エリザベスの恋のお相手をつとめてダーシー氏。

エリザベスの偏見を増長させる高慢さ。

それは資産家の長男としての育ちの良さゆえの生まれ持った高慢さともいえるでしょうか。持ち前の性格にとあいまり、ダーシー氏は気難しい存在にうつる時があります。

『高慢と偏見』におけるダーシー氏

ダーシー氏に対する皆の反応は物語の冒頭で明らかになります。

その立派な上背のある身体つきと男前な顔立ちと気品のある物腰と、それに会場に入って5分と経たないうちに弘まった年収1万ポンドという噂によって、たちどころに部屋中の注意をひきつけた。男達は実に風采の堂々とした男だと言明し、女達はミスター・ビングリーよりもずっと美男子だと公言して憚らなかった。そんな訳でミスター・ダーシーは暫くのあいだ大変な讃嘆の眼で見られていた。ところが舞踏会も半ば頃になると、その態度が反感を買って人気の潮流が変ってしまった。それと云うのもこの人はお高く止っていて、皆を見下し、一緒に楽しもうとしないことが判ったからである。(pp28-29)

資産家の大地主であるダーシー氏はたちまちのうちに皆の注目を集めたものの、ほどなくして高慢で人を見下す不愉快な奴だと周囲の人に認識されます。

エリザベスもそう認識します。かつ、ウィカムに好意を寄せていたエリザベスはウィカムによるダーシー氏とのいきさつを聞いて反感を募らせ、かつ、ジェインとビングリー氏の仲を引き裂いだことを許せません。

私はあなたの態度を見て、この人は何て傲慢な、自惚の強い、傍若無人な人なんだろうと確信しました。

これがエリザベスのダーシー氏に対する評価です。

ベネット夫人によるダーシー氏

ベネット夫人がダーシー氏に対してあてつけで云ったこと。

よく自分のことをたいそう偉いと思って誰とも口を利こうとしないしない人達がいますけれど、そういう人たちはまるで考え違いをしているんです。(p84)

しかし、ベネット夫人の意見はエリザベスとダーシー氏が結婚すると知るや否や、180度回転します。

ほんとにまあ! 何てことでしょう! どう考えてもまさかとしか思えない! ミスター・ダーシーだなんて! 一体誰がそんなことを思ってもみたかしら? でもそれは本当に本当なのね? まあ! 愛しいリジー! それじゃお前は大変なお金持になって、とても偉い奥様になるんじゃないの! お小遣いはたっぷり、宝石もどっさり、馬車だって素敵なのが何台も! ジェインなんか較べものにならないわねーほんと足許にも及ばない。ああ、嬉しいわねえー幸せで胸がいっぱいだわ。それにしても何て魅力的な人かしらね! それは男前で、あんなに背が高くて! ああ、愛しいリジー! 私はあの人のころを今までひどく嫌っていたけれど、お前からよくよく謝っといておくれね。(P642)

愛すべきベネット夫人…!

この単純さは個人的には好ましく思います。ええ、はたから第三者として見ている分にはベネット夫人は面白おかしく眺めることができますね。

女中頭のレノルズ夫人によるダーシー評

レノルズ夫人、ダーシーが所有する屋敷、ペンバリーの女中頭。

私は御主人を四歳のときから存じ上げておりますけれど、ご主人から不機嫌な気難しい物云いをされたことはこれまで唯の一度もございません。(一部省略)

仮に世界中を廻っても、これ以上の方にはまず出会えないでしょう。でも私はいつも見ていて思うのですが、幼くして気立てのよい人というのは、大人になっても気立てのよさは変らないものですね。御主人は、それはもう常に誰よりも御気性の優しい、思い遣りの心をお持ちの坊ちゃまでした。」(p421)

 

ダーシー氏による自己評価

「僕には或る種の人達が持っている才能がないんです」とダーシーが云った。「初対面の人とでも気軽に話の出来る才能がね。初対面の人が相手だと、話の調子が摑めないし、相手の話にこっちも興味があるような顔も出来ない。そういうことの得意な人をよく見掛けるけれど、僕にはどうも苦手なんです。」(p303)

ダーシー氏は己をよく理解しているといえるでしょう。

かつ、裕福な特権階級に生まれ育ったことがダーシー氏の高慢な性格を形作ったように思いますね。

ダーシー氏の年収1万ポンドを現在の金額に換算すると?

『高慢と偏見』において、ダーシー氏の年収が1万ポンドであることは物語の早い段階で明らかにされます。

この1万ポンドで現在の価格で考えると、約1億円。

尚、ダーシー氏やビングリー氏の収入のほとんどは地代によるもので、ある文献(19世紀イギリス小説のためのリーダーズ・ガイド)によるとこの1万ポンドという年収は当時の英国で上位300~400世帯の中の一つだそう。

つまり、ダーシー氏は爵位こそありませんが、貴族に連なる血筋(ダーシーの母親は伯爵令嬢、レディ・アン・ダーシー)と潤沢な収入により、上流社会の一員として認められています。

これを現代にあてはめると、地方の零細中小企業の娘が都会の大企業の経営者に嫁いだという感じでしょうか。いずれにしろ、ベネット夫人の反応からすると、エリザベスが玉の輿に乗ったことは間違いがないようです。

ダーシー氏を演じた俳優

『高慢と偏見』(1940年) ローレンス・オリヴィエ( Laurence Kerr Olivier )
『高慢と偏見』(1995年) コリン・ファース( Colin Andrew Firth )
『プライドと偏見』(2005年) マシュー・マクファディン( Matthew MacFadyen )
『高慢と偏見とゾンビ』(2016年) サム・ライリー( Sam Riley )

ローレンス・オリヴィエ。

イギリスが誇る国民的俳優であり、シェイクスピア俳優としても知られている彼が若き日にダーシー氏を演じました。端正な顔立ちの正統派のハンサム。

個人的に、わたしはオリヴィエには興味がないのですが、彼の妻であったヴィヴィアン・リー(『風と共に去りぬ』のスカーレット役が有名)の大ファンで彼女を捨てたオリヴィエにはいい感情がナーッシング。

でも、若き頃のオリヴィエの美貌にはうっとりとさせられますね。

次はコリン・ファース。

コリン・ファースが演じたダーシー氏は本当に魅力的でした!惚れ惚れとしたものです。

有名なあのシーン。エリザベスに手酷く振られて悶々と悩むダーシー氏が勢いのまま池に飛び込むあのシーン…!全英女性が悶えたといいますが、その気持ちはものすごく分かります…!!!

わたしも悶えましたー!!!

その後、コリン・ファースは着実にスター街道を走り抜け、今でも精力的に映画出演をしていますね!

マシュー・マクファディン演じるダーシー氏はちょっと影が薄い印象だったかも…相手役のエリザベスを演じた、キーラ・ナイトレイの方が華やかすぎて、マシュー・マクファディンのその華やかさに負けてしまった印象。くわえてちょっとやぼったく感じてしまいました…

でも、もっと残念だったのはサム・ライリー演じるダーシー氏かな…

これは作品が良くなかったような気もしますが…( ;∀;)

というわけでわたしのベストダーシー氏はコリン・ファース演じるダーシー氏なのです!