『ペンバリー館―続・高慢と偏見( Pemberley )』はイギリスの作家、エマ・テナントが描いた『高慢と偏見』の続編。
エリザベスとダーシー氏が結婚して1年後を描いています。
エマ・テナント著『ペンバリー館―続・高慢と偏見』
原題 | Pemberley |
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出版年 | 1993年 |
作者 | エマ・テナント |
あらすじ
『高慢と偏見』にて紆余曲折を経てダーシー氏と結婚したベネット家の次女エリザベスの悩みは子供に恵まれないこと。
結婚後、初めてのクリスマスを新居ペンバリー館で多くの招待客を迎えて過ごすことにしたダーシー夫妻。
がさつなミセス・ベネット、そのミセス・ベネットに求婚する大佐、顔も見たくないウィカムとリディアの夫妻、意地悪なダーシーの叔母レディ・キャサリン、エリザベスの最も信頼する姉ジェイン、その夫ビングリー氏、その姉妹のハースト夫人やキャロライン、などが一堂に会したクリスマスの最中に露呈したダーシーの知られざる「過去」の秘密。
そしてペンバリー館を去る決心をしたエリザベスは今やコリンズ夫妻の館になったロングボーンに身を寄せます。
その中でエリザベスが手にした真実は?ダーシー氏への気持ちは?
エマ・テナントが描いた『ペンバリー館―続・高慢と偏見』ネタバレあり感想 → ゴシップ雑誌を眺めているよう
作者の他の作品は全く知りませんが、本業はゴシック系の作家とのこと。
その結果、彼女の作品に登場するエリザベスやダーシーはやや独りよがりで、ちょっとしたことに心揺れる形で描かれます。
また、全体的にエマ・テナントが望む方向へ状況を転がすだけの物語、といった風情。
著者は基本的にはミセス・ベネットが一番描写がたやすく、エリザベスやダーシーのような理性的な人を描くのが苦手なんだろう、と思います。
本作品ではユーモアも軽やかさもウィットにとんだ皮肉というものが皆無。
エリザベスはただただ揺れるだけ。ミセス・ベネットといえどもここまでではあるまい、と叫びたくなるほどのふらふら。ダーシーも意味ありげな行動をしているだけで、そこには何ら知恵も配慮もありません。
その結果、本家の『高慢と偏見』には遠く及ばない二人が出てきてしまう、と。文章の脈絡がない。すべてが場当たり的であり、唐突であり、微妙な機微を味わう、ということは望むべくもない、という出来栄えになってしまうのだろう、と。
まるでゴシップ雑誌を眺めているようでした。
結論。
エマ・テナントの描いた『高慢と偏見』の続編はいずれも所詮は彼女の妄想小説でしかなく、あえて読む必要がありません。
しかし、その一方でこれが現実なのかもしれない、と思うわたしもいる
地方の小さな田舎領主の次女であったエリザベスと貴族との縁戚関係もある名門の当主ダーシー氏。
ジェイン・オースティンが紡ぎだした『高慢と偏見』ではエリザベスとダーシー氏、ジェインとビングリー氏の結婚というハッピーエンドで終わりを迎えます。
それがオースティンの小説の形なのです。
いみじくも『 ジェイン・オースティンの読書会 』で述べられたように『ジェインは結婚後の生活を描かなかったわ…』ということに。
ジェイン・オースティン自身は生涯独身で過ごしましたが、その前提として聡明な彼女は結婚生活が楽しいことばかりじゃない、と感じるものがあったのかもしれません。
いみじくもエマ・テナントがメロドラマ的に描き出した現実をひしひしと感じていたのかもしれない。そんなことを思う瞬間がありました。
それにしてもエマ・テナントが描いたエリザベスはあまりにもうじうじし過ぎています…!
エリザベスの魅力であった強気と軽やかさが足りません~!!!
小説『リジーの庭』1994年も出版
なぜ、エマ・テナントが『高慢と偏見』の続編を2作も執筆したのかはなはだ不明ですが、まだ『りじーの庭』のほうが理路整然としている印象。
ま、それでも、本家の『高慢と偏見』には遠く及びませんが…
いずれにしろ、エマ・テナントが描いた『高慢と偏見』の続編は購入をおすすめしません。図書館で借りて読むのが一番ですね!
小説『リジーの庭( An Unequal Marriage )』1994年/エマ・テナント( Emma Tennant )
もしくはP・D・ジェイムズの『高慢と偏見、そして殺人』のほうがずっとおすすめ。
『高慢と偏見、そして殺人( Death Comes to Pemberley )』』2012/イギリス/P・D・ジェイムズ