『高慢と偏見』の実質的な主人公であり、ヒロイン。ベネット家の次女。愛称はリジー、イライザ。
才気煥発ではっきりとした性格。ベネット氏のお気に入りの娘。長女ジェインと特に仲が良く、何かあれば二人で話をしています。
尚、『高慢と偏見』の執筆を開始したころ、作者のジェイン・オースティンは20歳で、エリザベスと同じ年齢。ジェインはエリザベスに自分を重ねて執筆したことは想像に難くありません。
『高慢と偏見』家族から見たエリザベス
ベネット氏によるエリザベス評
リジ―だけはほかの娘達より幾分頭のいいところがある。(p19より抜粋)
ベネット氏は5人の娘の中でエリザベスをことさらに可愛がっています。
エリザベスがコリンズにプロポーズされた時もはっきりとエリザベスの味方をして、ベネット夫人をきりきり舞いさせています。
ベネット氏にとってベネット夫人と下の3人の娘は頭痛の種でもありましたので、ことさらにエリザベス、そしてジェインを可愛がっていた様子。
ベネット夫人によるエリザベス評
リジ―にはほかの娘達と較べて少しもいいところなんかないじゃありませんか。顔立ちはジェインとは較べものにならないし、愛嬌だってリディアとは較べものにならない。(p19より抜粋)
一方、母親のベネット夫人からすると、頭の回るエリザベスはさほどお気に入りの娘ではありません。他方、、美人で優しい長女ジェインと明るく活動的(?)なリディアがお気に入りの娘。
エリザベスの方もベネット夫人を母親として愛しく思いながらも恥じているところがあります。
娘と母親、馬が合う、合わないがでたのかもしれませんが、ベネット夫人は上記にあるようにエリザベスにかなり辛辣です。
読んでいる方としてハラハラすることもあり、正直なところ、わたしがエリザベスの立場でしたら母親を嫌いになってもおかしくないですね。
ダーシー氏によるエリザベス評とその変遷
ジェインとビングリー氏の恋が一目ぼれによるものなら、エリザベスとダーシー氏の恋は反発(高慢と偏見)から生み出されるもの。
すなわち、反発、好奇心、好意、すれ違い、そして、もう一度相手を冷静に見つめる、と。
タイトルの『高慢と偏見』は実にこの二人の気持の変遷をあらわしているとも言えます。違いに対する偏見と高慢さ。
エリザベスはダーシー氏の裕福な育ちゆえの鼻持ちならない高慢さに偏見を抱き、ダーシー氏はエリザベスの育ちと家族に偏見を抱き、高慢な態度で接します。
そこから恋に発展する過程がこの物語の醍醐味でもあります。
最悪の出会い
ダーシーは振向くと、一瞬エリザベスを見たが、やがて相手と眼が合うと、自分の眼を逸らせて、冷ややかな口調で云った。
「まあまあってとこだな。だがこの僕を踊りたい気にさせるほどの美人ではないね」(p31)
とエリザベスに聞こえるように告げます。
この時、ダーシー氏の眼に映るエリザベスはそこら辺の田舎の娘と同じ存在だったのでしょう。取り立てて惹かれるところのない娘として捨て置かれることに。
それを聞いたエリザベスは当然ながらダーシー氏にいい感情を抱きません。
しかしながらこの話はいとも快活に友達の間に触れて廻った。と云うのも、エリザベスは気質が朗らかで、茶目っ気があり、滑稽なことがあるとなんでもそれを面白がる方だったからである。(pp31-32)
ダーシー氏、エリザベスの瞳に捉えられる、が、ダンスを断られる
あの娘は対して綺麗な目鼻立をしている訳ではないと、自分でもはっきりと認め、友人達にも口に出して云った途端に、その目鼻立が黒い瞳の美しい輝きによってひどく聡明な表情を帯びることに気がつき始めた。
その後も、エリザベスの肢体はバランスが良くない、態度は洗練されていない、家族はいまいちだと言い訳をしますが、ダーシー氏はエリザベスをもっと知りたいと思うようになります。
その第一歩としてエリザベスが他の人と話している会話に聞き耳をたてることですが、これはエリザベスに不信を抱かれます(笑)
そして、ダーシー氏はキャロライン・ビングリーにエリザベスが自らの心を動かす存在であることを極めて挑戦的に宣言を。
キャロラインはダーシー氏を自らの結婚相手として狙っているわけですから、彼女にとってこれは面白くない話なんですね。
エリザベスとダーシー氏、一つ屋根の下で過ごす
ジェインがビングリー氏の屋敷を訪れた時、雨にうたれてジェインは体調を崩します。
心配したエリザベスがネザーフィールド屋敷を訪問し、看病のためにしばらく滞在することに。はからずもダーシー氏とエリザベスは一つ屋根の下で過ごすことに。
そして、日々、エリザベスの姿を見て、会話を交わし、ダーシーは自分の心が彼女へ傾いていくことを自覚しない訳にいかなかった。
エリザベスはネザーフィールドに少し長く居すぎたのだ。ダーシーはエリザベスに心惹かれる自分が面白くなかった。
ウィカムに心傾くエリザベス、ダーシーへの反感
ベネット家の相続人コリンズに対する偏見を育てている間、エリザベスは偶然、ウィカムと知り合います。
ウィカムとダーシー氏の反目を知り、エリザベスはますますダーシー氏への反発を募らせていき、ある日の舞踏会でその事実をダーシー氏に告げます。と同時にその舞踏会はベネット家が醜態をさらした日でもあり、エリザベスは疲れたまま帰宅の途へ。
その後、エリザベスはコリンズのプロポーズを退けて間もなく、驚いたことにシャーロットとコリンズの結婚が明らかに。
その際、エリザベスはコリンズ夫妻の屋敷や招待されます。
ダーシー氏の高慢なプロポーズ
コリンズの屋敷に滞在することになったエリザベス。
結果、叔母であるキャサリン・ド・バーグ夫人を訪ねてきたダーシー氏と再会することに。そして、同時にジェインとビングリー氏の仲を引き裂いたのはダーシー氏であることを確信します。その瞬間でした、ダーシー氏が告白に訪れたのは。
もう駄目だ、何とか抑えようと努力したけれど、どうしても抑え切れない。この気持を抑え込むのは無理です。はっきり云います。僕はあなたのことが好きだ、心から愛している。
それに対してエリザベスはウィカムやジェインとビングリー氏のことを思い出し、強い拒絶を示します。
しかし、ダーシー氏は手紙にて自らの考えと姿勢を示し、エリザベスも事の真相と次第に気づき始めます。ともあれ、1回目の唐突なプロポーズはあっけなく終わりを迎えました。
ペンバリー屋敷での再会、リディアの駆け落ち
旅行の途中、ガードナー夫妻とペンパリー屋敷の見学に出かけたエリザベスはダーシー氏と再会。
そこで、ダーシー氏の叔父夫妻に対する丁寧で愛想のよい態度に驚くが、同時に嬉しくも思います。
もう何箇月ものあいだ、知合いの女性の中であのひとが一番の美人だと思っている。
しかし、そこへジェインから衝撃の知らせが届きます。末っ子のリディアとウィカムが駆け落ちした、と。
ダーシー氏の尽力、そして、再度の告白
駆け落ちしたリディアとウィカムを無事に結婚させることができて安堵したベネット家。
その裏にダーシー氏の尽力があることを知り、感謝するエリザベス。そして、ジェインとビングリー氏の結婚も決まりました。
あなたは心の寛大なかただから、僕の心をいい加減にあしらうようなことはなさらないと思う。もしあなたの気持が今もこの四月と同じでしたら、この場ではっきりとそう云って下さい。僕の愛情と願いは少しも変っていません。
ここでジェインとビングリー氏、そして、エリザベスとダーシー氏の結婚が執り行われることになりました。
エリザベスの恋における戦略
エリザベスはシャーロットがコリンズを捕まえるように意識的に恋愛の戦略をしたわけではないと思いますが、結果的に彼女はかなり戦略的にダーシー氏を捕まえました。
ダーシー氏を巡る争いではビングリー氏の妹、キャロラインが常に存在していました。
キャロラインは割と分かりやすくダーシーに媚びて、自分の方へ向けるべく鬱陶しいほどにダーシー氏にアピールしています。
一方、エリザベスはその対極です。
キャロラインのアピールを面白く眺め、ダーシー氏に対する偏見があるエリザベスはむしろたきつけるように会話を繰り広げます。
地位や身分、財産、広大な敷地、恵まれた美貌の持ち主であったダーシー氏はエリザベスに会うまで、多くの女性からアプローチを受け、それなりの恋愛を繰り広げてきたことは容易に想像できます。
そんなダーシー氏にとってエリザベスの態度は興味深く、また心そそられるものだったに違いありません。
いわば、エリザベスはダーシー氏に「今まであなたの周りに登場した女とは違うのよ!」と無意識にアピールする結果になり、ダーシー氏の心を強くとらえる結果になったのです。
ダーシー氏を巡る女性といえば、もう一人、キャサリン・ド・バーグ夫人の病弱な娘もいましたが、こちらは叔母の賢明なアピールにダーシー氏が辟易していたことは想像に難くありません。
ダーシー氏にとって、エリザベスは新鮮な存在だったのです。
エリザベス役を演じた女優
『高慢と偏見』(1940年) | グリア・ガースン( Greer Garson ) |
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『高慢と偏見』(1995年) | ジェニファー・イーリー( Jennifer Ehle ) |
『プライドと偏見』(2005年) | キーラ・ナイトレイ( Keira Knightley ) |
『高慢と偏見とゾンビ』(2016年) | リリー・ジェームズ( Lily James ) |
物語のヒロインであるエリザベスは当時を代表する若手美人女優が配されることが多く、華やかな顔ぶれですね。
1940年の『高慢と偏見』でエリザベスを演じたグリア・ガースンはちょっと冷たい感じのする美人。
彼女は代表作『ミニヴァー夫人』でアカデミー主演女優賞を受賞するのですが、その際のスピーチが5分と長いもので、当時は大ひにゅくをかいました。この結果、アカデミー賞の受賞スピーチは45秒以内と決められたようですよ。
正直、わたしはBBC版のジェニファー・イーリーが演じたエリザベスが正統派美人ではないことに面食らっていた時期もあります。
が、いまなってみると、ジェニファー・イーリー演じたエリザベスが一番時代に忠実な美女だったと思っています。控えめな美というか、ウィットをこらえた美というか、とにもかくにもエリザベスの偏見と高慢、そして素直さを体現していたと思います。
一方、キーラ・ナイトレイやリリー・ジェームズではあまりにも華やかすぎますね…!
二人ともこの地方一番の美女である姉ジェインをもしのぐほどの美女ですよ…