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『ジェイン・オースティンの思い出』はオースティンの甥による、ジェイン・オースティンの伝記本です。

『ジェイン・オースティンの思い出』J・E・オースティン=リー著

『ジェイン・オースティンの思い出』J・E・オースティン=リー著

著者はジェイムズ・エドワード・オースティン=リー、ジェインの長兄の息子、つまり、ジェイン・オースティンの甥。

ジェイン・オースティンは1775年に生まれ、1817年に死去。一方、J・E・オースティン=リーは1798年に生まれ、1874年に死去。

著者はウィンチェスター大聖堂で行われたジェイン叔母さまの葬儀に最年少として参加し、実際にジェインの人となりを知っており、かつ、ジェインの生前に文書を見てもらうこともあったようです。やや回りくどいところがありますが、それなりにスムーズに読むことができます。

目次

第一章 はじめに――ジェイン・オースティンの誕生――家族と親戚――家族と親戚が作品に及ぼした影響

第二章 スティーヴントン村――スティーヴントン村の生活――十八世紀の風俗習慣の変化

第三章 少女時代の習作――アッシュ村の友人たち――古い手紙――ルフロイ夫人の死を悼む詩――ジェイン・オースティンの手紙に関する所見――手紙

第四章 スティーヴントン村を去る――バースとサウサンプトンの家――チョートン村に落ち着く

第五章 ジェイン・オースティンの容姿と性格と趣味

第六章 長い休止期間のあとに再開された創作の習慣――最初の出版――作品の成功にたいする著者ジェイン・オースティンの関心

第七章 文学界と無縁な生涯――摂政皇太子のお引き立て――クラーク氏との往復書簡――作風変更の助言

第八章 オースティンの名声のゆっくりとした高まり――処女出版の試みの失敗――オースティンの作品に関する二つの対照的な書評

第九章 著名人たちの意見――普通の読者の意見――アメリカの読者の意見

第十章 ジェイン・オースティンの小説に関する私見

第十一章 ジェイン・オースティンの健康の衰え――病床での明るさ――死にたいする覚悟と謙虚さ――死

第十二章 『説得』の破棄された章

第十三章 最後の作品

第十四章 あとがき――初版の末尾に追記され、第二版で削除された「あとがき」

甥から見たジェイン・オースティン

ジェイン・オースティンの容姿はとても魅力的だった。すらりとした長身で、軽やかなしっかりとした歩きをし、とても健康的で活発な人という印象だった。顔の色は透き通るようなブルネット(褐色がかった色)で血色がよく、丸いふっくらとした頬をし、口と鼻は小さくて、とてもいい形をしていた。目の色はハシバミ色(ヘーゼルナッツのような薄茶色)で、髪の色は茶色で、加温まわりで自然にカールしていた。姉カサンドラのような典型的な美人ではないが、その表情には、人の目を引きつける独特の魅力があった。

私の記憶に残るジェイン叔母ジェインは、朝も夜もいつも帽子を被っていた。ジェインも姉カサンドラも、まだ若くて美しいのに、中年女性のような服装をしていると、みんなから思われてたのではないかと思う。服装も生活もとてもきちんとしていたが、流行の服や、どういう服が自分に似合うかということについては、あまり注意を払わなかったのではないかと思う。(pp107-108)

また、ジェインは刺繍や裁縫が得意だったこと、けん玉の腕前も素晴らしかったこと、甥や姪に対してやさしいいおばであったことが示唆されています。

また、甥や姪の創作の手伝いもしたようですね。

登場人物たちの集め方がすばらしいと思います。私のいちばん好きな設定になっています。田舎の3つか4つの家族が、小説の題材として最適なのです。どうぞもっとたくさん書いて、この理想的な設定を十二分に活用してください。(pp120-121)

 

ジェイン・オースティンと姉カサンドラの関係

ジェインには6人の兄弟と一人の姉がいました。

この姉、カサンドラとジェインは文字通り生涯を共に過ごしました。

愛情深い幼い妹であるジェインが、やさしい姉カサンドラにたいして敬愛の念を抱いたことから始まったものだと思われる。そして、幼いころに抱いた姉に対するこの敬愛の念は終生消えることはなかった。ジェインは大人になってからも、そして小説家として成功してからも、姉のカサンドラのことを話すときは、自分よりも姉の方が賢くて立派だといつも言っていた。(pp17-18)

そして、ジェインとカサンドラの二人は死によって引き離されるまで、いつも同じ家に住み、いつも同じ寝室で寝起きを共にしていた、とのこと。

姉カサンドラと比較したジェイン・オースティンの性格

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ジェインとカサンドラの性格は似ていなかったようです。

カサンドラのほうが冷静で穏やかな性格だった。カサンドラはいつも慎重で、適切な判断をした。しかし、あまり感情を表に出さない性格で、ジェインのような明るさには欠けていた。オースティン家ではよくこう云われていた。

「カサンドラは、いつも自分の気持ちを抑えるという美点を持っている。でもジェインは、自分の気持ちを抑える必要がないという幸せな性格を持っている」(p18)

このくだりを読んだ時、おのずと『分別と多感』が思い出されました。冷静な姉、エリナと情熱的な妹、メアリアン。

しかし著者はこれを否定しています。

ジェインの性格とマリアンの「多感」はほとんど共通点がない。(p19)

カサンドラの婚約とその死

ジェインの姉、カサンドラは若い牧師、トム・ファウルと長らく婚約していました。

しかし、彼は財産がほとんどなかったためすぐに結婚することは難しく、婚約状態が続いたまま、西インド諸島で黄熱病のために亡くなりました。

以降、カサンドラは生涯独身を貫き、仲の良い姉のこの悲報にジェインの心は大きく動かされたことが予測できます。

映画『ジェイン・オースティン 秘められた恋』 でもそのくだりが印象的に描かれていましたね。

14歳年上のいとこ、イライザ・ハンコックの存在

ジェインの父の姉、フィラデルフィア・ハンコックの娘でパリにて教育を受け、フュイド伯爵(爵位の真偽は不明)と結婚します。

このフュイド伯爵という人物にて作者が知っていることはただひとつ。

フランス革命中にギロチンにかけられて亡くなったということ。

彼の妻であったイライザは危険と困難を乗り越えてイギリスへ逃れ、叔父のオースティン家に滞在し、いずれジェインの兄ヘンリーと結婚します。

イライザは非常に頭のいい女性で、芸事など女性としての教養もしっかりと身につけており、しかもそれは、イギリス流ではなくフランス流の教養だった。当時のイギリスはフランスとの戦争のために、大陸との交流が長い間途絶えていたので、田舎の牧師館の生活にとって、フランス仕込みの教養を身につけた女性は貴重な存在だったにちがいない。(p32)

カサンドラとジェインのフランス語の知識はこのイライザから得たといわれています。

年上のスマートで洗練されたいとこはジェインとカサンドラに大きな影響を与えたことは容易く想像されます。アン・ハサウェイ出演の『ジェイン・オースティン 秘められた恋』でも蠱惑的なイライザが出演していましたね。

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ジェイン・オースティンの時代の舞踏会

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多くの地方都市では、冬の間は月に一度は舞踏会が催され、同じ部屋が舞踏会場とティールームを兼ねる場合もあった。ディナーパーティーの最後に、絨毯の敷かれた部屋で、即席の舞踏会が開かれることもあり、音楽は、家のハープシコードや、村のヴァイオリンで間に合わせた。こういう舞踏会は若い人たちの娯楽と考えられていたが、けっして若くはない人たちも大喜びで参加した。ジェイン・オースティンもダンスを大いに楽しんだに間違いない。(p40)

当時の舞踏会の主役は、あの壮重なメヌエットだった。正式の舞踏会は、すべてメヌエットの曲で始まった。ゆったりとした壮重な動きのダンスで、楽しさではなく、優雅さと威厳にあふれたダンスだった。形式ばった丁重なお辞儀がくり返され、前後左右にゆったりと規則的に動き、複雑な回転が何度も行われるダンスである。舞踏会場の中央で、一組の紳士と淑女によって踊られ、まわりの見物人たちは褒め称えたりけなしたりした。(p41)

メヌエットを踊れる人は限られており、当時のイギリスでもっぱらはやっていたのはカントリーダンスだそう。

カントリーダンスとはイギリス発祥のダンスで、二組の男女が向かい合って踊るスタイル。

果てしなく続くカントリー・ダンスであり、これはだれでも参加して踊ることができた。カントリー・ダンスはたいへん楽しいダンスだったが、大きな問題点もあった。男女が二列に並んで、すこし離れて向かい合って踊るので、男性も女性も、期待したほどのたわむれ合いや楽しい会話を楽しむことができなかったからだ。(p424)

『高慢と偏見』でエリザベスとダーシー氏が丁々発止言い合う場面で踊られていたダンスはこのカントリーダンスを指すのだろう、と思われます。

家族しか知りえないジェイン・オースティンの姿が浮かび上がる

『ジェイン・オースティンの思い出』J・E・オースティン=リー著
ジェインの手紙とジェインを描いた肖像画

ジェイン・オースティンは当時の文壇や文学界と深くつながった人ではありません。

小説も当時の風習に従って(女性の慎み…!)匿名で出版されました。

そのため、ジェインの姿を浮かび上がらせるには家族の発信は不可欠だったと思われます。そういった意味では興味深い本でした。

わたしは今まで彼女の作品を知ってはいましたし、ジェイン・オースティンがイギリスの女流作家であることも知っていました。が、それ以上はまったく知りませんでした。

それだけに新鮮に読めました。

甥目線からだからか、全体的にジェイン・オースティンが非常に理想化されているのもほのぼのしました。

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