この地方一の美女、ジェイン・ベネット。ベネット家の長女。
美しく、優しく、素直で聡明な娘、ジェイン。ベネット夫人の自慢の娘です。
従来の物語でしたら、このジェインが主人公の役を与えれていてもおかしくない立ち位置です。
『高慢と偏見』におけるジェイン・ベネット
ジェインは美しく、モノの見方に偏りのない聡明な娘として描かれています。
ジェインの性格
舞踏会でのエリザベスのセリフより。
お姉様が部屋中のほかのどの女性よりも綺麗なことは認めざるを得なかったんだもの。
お姉様は大概誰でも好きになっっちゃう方じゃないの。人の欠点を決して見ないんだから。お姉様の眼には世のすべての人が善良な感じのいい人に見えるのよ。(いずれもp36より)
同じ場にて、ジェインのセリフより。
私は軽率に人の批判をしたくないのよ。でもいつでも思ったことを云っているわ。(p36)
そんなジェインの控えめな質を心配するシャーロットはなかなか的を得た指摘をします。
ビングリーがジェインに対して好意を持っていることは確かだけれど、でもジェインの方から何の働きかけもなければ、ただジェインが好きだというだけで、それ以上のことにはならないかも知れないわよ。
シャーロットらしい哲学です。
要は「鉄は熱いうちに打て」ということでしょう。事実、この後、ジェインとビングリー氏が引き離されることを思うとあながち間違っていないアドバイスでした。
物語のヒロインにふさわしい娘、ジェイン
先ほども書きましたが、ジェインは物語のヒロインにふさわしい娘です。
例えば、ビングリー氏から見たジェイン。
二人の幸福が期待できる根拠として、ジェインの優れた理解力とこの上ない人柄の良さを挙げ、加えて自分達二人が物の感じ方も好みも概してよく似ていることを挙げていたからである。(p588)
そして、ジェインとよく似た気質のビングリー氏も物語のヒーローにふさわしい相手。
ダーシー氏よりもよほど分かりやすいヒーローですね、資産家で明るく快活で人好きのする性格、と。
『高慢と偏見』はこの正統派ヒロインとヒーローを主人公に仕立て上げなかったことにより、物語に深みが出たように思います。
『高慢と偏見』にジェインとビングリー氏の会話シーンはない
以下はジェインがビングリー氏よりプロポーズされた有名なシーン。
そのとき、一旦姉とともに腰を下ろしていたビングリーが突然立上がり、姉に何やら二言三言囁くと、走って部屋から出て行った。(p586)
ジェインとビングリー氏の恋はいわば一目ぼれです。
ああ!あんな美人は僕も未だかって見たことがない!(p31)
その一目ぼれのジェインとビングリー氏に会話シーンが一切ないと知った時、衝撃を受け、改めて読み返したものです。
確かにエリザベスとダーシー氏が丁々発止でやりあっているのに対して、ジェインとビングリーの直接的な会話シーンは文字通り一切ありません。
エリザベスとジェインの会話の端々、シャーロットとの会話、ビングリー夫人の期待や周囲の反応で読者は「ジェインとビングリーは惹かれあっているのだわ、あの二人の仲は順調に進んでいるのだわ」と知らされます。
そして、読者の旺盛な妄想で後は補っていくことになるわけです。
ジェインとビングリー氏が二人で踊っているシーン、散歩をしているシーン、向き合って会話をしているシーン、微笑みあっているシーン。
確かにそれらのシーンは思い出せるのに肝心かなめの会話の中身が見えてきません。エリザベスとビングリーの会話のシーンとその内容すら浮かぶのに、ジェインとビングリーは何を話していたのか…と。
それが作者ジェイン・オースティンの手法なのです。必要でないものは書かない、と。
参考『NHKテキスト高慢と偏見』
ジェイン役を演じた女優
『高慢と偏見』(1940年) | モーリン・オサリヴァン( Maureen O’Sullivan ) |
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『高慢と偏見』(1995年) | スザンナ・ハーカー( Susannah Harker ) |
『プライドと偏見』(2005年) | ロザムンド・パイク( Rosamund Pike ) |
『高慢と偏見とゾンビ』(2016年) | ベラ・ヒースコート( Isabella “Bella” Heathcote ) |
モーリン・オサリヴァンという名前に聞き覚えはなくともミア・フォローの名前をご存知の方は?
映画『ローズマリーの赤ちゃん』や『華麗なるギャッピー』でヒロインを演じ、フランク・シナトラやウッディ・アレンとパートナー関係にあった女優さん。また、ミア・ファローは児童の権利擁護活動でも活発に動いていることで知られています。
モーリン・オサリヴァンはそのミア・ファローのお母さんです。
その次に有名なのはロザムンド・パイクでしょうか。
ボンドガール出身のロザムンド・パイクはさすがの美貌と素晴らしいプロポーションの持主。
そして個人的には何よりもベン・アフレックと共演し、ありとあらゆる賞にノミネートされた『ゴーン・ガール』の背筋凍る演技が記憶に新しいところです。清楚でうぶで純真なジェインがあんな強欲で恐ろしい妻になろうとは…!ロザムンド・パイクの女優魂を見た気分です。
BBC版でジェインを演じたスザンナ・ハーカーは今でもテレビを中心に活動されています。
今思うと、彼女のジェインが一番、初心さを醸し出していたかもしれませんね。